1.貯金保険制度の仕組み
(1)貯金保険の役割と運営主体
農水産業協同組合貯金保険制度(以下「貯金保険制度」といいます)とは、農水産業協同組合が貯金等の払戻しができなくなった場合などに、貯金者等(以下「貯金者」といいます)を保護し、また資金決済の確保を図ることによって、信用秩序の維持に資することを目的とする制度です。
我が国の貯金保険制度は、「農水産業協同組合貯金保険法」(昭和48年7月法律第53号。以下「貯金保険法」といいます)により定められており、政府、日本銀行、農林中央金庫、信用農業協同組合連合会、信用漁業協同組合連合会等の出資により設立された農水産業協同組合貯金保険機構(以下「貯金保険機構」といいます)が制度の運営主体となっています。
貯金保険機構の業務は、①貯金者保護等のセーフティネットとしての貯金保険制度の運用、とりわけ貯金保険の保険料徴収・農水産業協同組合の破綻処理に伴う資金援助及び保険金支払等と農水産業協同組合検査の業務、②管理人等としての破綻農水産業協同組合の管理・処分等の業務に大別することができます。
貯金保険機構の運営に関する重要事項の議決を行う意思決定機関として「運営委員会」が設置されており、同委員会は、農業又は水産業及び金融に関して専門的な知識と経験を有する委員(7名以内)並びに貯金保険機構の理事長(運営委員会委員長)及び理事(1名)をもって構成されています。
(2)対象農水産業協同組合
貯金保険制度の対象となる農水産業協同組合は、以下の農水産業協同組合です。
貯金保険制度の対象農水産業協同組合に貯金等をすると、貯金者、農水産業協同組合及び貯金保険機構の間で自動的に保険関係が成立します。貯金保険制度の原資となる保険料は、対象農水産業協同組合が、貯金等の額に応じて、毎年、貯金保険機構に納付します。
○ 農業協同組合(信用事業を行う組合に限ります)
○ 信用農業協同組合連合会
○ 漁業協同組合(信用事業を行う組合に限ります)
○ 信用漁業協同組合連合会
○ 水産加工業協同組合(信用事業を行う組合に限ります)
○ 水産加工業協同組合連合会(信用事業を行う連合会に限ります)
○ 農林中央金庫
○ 特定承継会社
(注1) 特定承継会社は農業協同組合の信用事業を農林中央金庫に引き継がせることを主目的とする期限付き(令和8年3月31日まで)の農林中央金庫の子会社です。
(注2) 日本国内に本店のある銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、信金中央金庫、全国信用協同組合連合会、労働金庫連合会、商工組合中央金庫は、「預金保険制度」に加入しています。
(3)対象貯金等
貯金保険の対象となる貯金等の範囲は、次のとおりです。
貯金、定期積金、元本補てん契約のある金銭信託(貸付信託を含みます)、農林債(保護預り専用商品に限ります)及びこれらの貯金等を用いた積立・財形貯蓄商品、確定拠出年金の積立金の運用に係る貯金等
(注)次の貯金等は対象から除外されます。
外貨貯金、譲渡性貯金、特別国際金融取引勘定において経理された貯金(オフショア貯金)、日本銀行(国庫金を除く)、対象農水産業協同組合その他の金融機関からの貯金(確定拠出年金の積立金の運用に係る貯金等を除く)、貯金保険機構からの貯金、無記名貯金、他人・架空名義貯金、導入貯金、農林債(保護預り専用商品以外)等
(4)貯金等の保護の範囲
○ 農水産業協同組合が破綻したときに貯金保険で保護される貯金等(「付保貯金」といいます)の額は、保険の対象となる貯金等のうち、決済用貯金(無利息、要求払、決済サービスを提供できること、という3要件を満たす貯金)に該当するものは全額、それ以外の貯金等(「一般貯金等」といいます)については1 農水産業協同組合ごとに貯金者1人当たり元本1,000万円までとその利息等です。
○ 保険の対象となる貯金等のうち決済用貯金以外の貯金等で元本1,000万円を超える部分及び保険対象外の貯金等並びにこれらの利息等については、破綻農水産業協同組合の財産の状況に応じて支払われるため、一部カットされることがあります。
(注1) 決済用貯金とは、「無利息、要求払、決済サービスを提供できること」という3要件を満たすものです。
(注2) このほか、納税準備貯金、貯金保険の対象貯金を用いた積立・財形貯蓄商品等が該当します。
(注3) 定期積金の給付補てん金等も利息と同様保護されます。
(5)決済債務の保護
農水産業協同組合が行う資金決済に係る取引(為替取引、手形交換所において決済をすることができる手形、小切手等の呈示(提示)に基づき行われる取引、農水産業協同組合が自己宛に振り出した小切手に係る取引)に関し農水産業協同組合が負担する債務を決済債務(注)といいます。例えば、農水産業協同組合が破綻前に顧客から振込の依頼は受けているものの、顧客から受け入れた資金が振込先へ移動していない取引に係る債務がこれに該当します。
決済債務は、全額保護されます。
(注) 農水産業協同組合自身や金融業を営む者の委託に起因する取引による債務は、原則として決済債務に該当しません。ただし、農水産業協同組合が業として行う取引に関する債務でない場合等は、決済債務に該当します。なお、決済債務のうち決済用貯金として経理されていないものを「特定決済債務」といいます。例えば、決済債務のうち、農水産業協同組合貯金や仮受金等として経理されているものが、これに該当します。
(6)貯金保護の仕組み
農水産業協同組合が破綻したときの貯金保護の仕組みとしては、
① 他の健全な農水産業協同組合(救済農水産業協同組合)に信用事業譲渡等を行い、その際に、資金援助を行う方法(資金援助方式)
② 貯金保険機構が貯金者に直接保険金を支払う方法(保険金支払方式)の2つの方式(注)があります。
(注) 破綻処理方法の詳細については、「貯金保険制度の概要 4破綻処理方式」の項を参照してください。
(7)保険料
保険料は、資金援助や保険金支払等の業務の原資となり、その料率は、長期的に貯金保険機構の財政が均衡するよう定めることとされています。
貯金保険対象農水産業協同組合は、毎年、その年の6月30日までに保険料を貯金保険機構に納付することが義務付けられており、保険料の額は、前年度(保険料を納付すべき日の属する年の前年の4月1日からその属する年の3月31日までの間)の貯金保険対象貯金等の残高(前年度各営業日の残高の平均)に保険料率を乗じて算出することになっています。
保険料率は、全額保護の決済用貯金(注)と定額保護の一般貯金等の各々について設定しています。なお、保険料率を定め、または変更するときは、運営委員会の議決を経たうえで、農林水産大臣、財務大臣及び金融庁長官(内閣総理大臣による法定委任。以下同じ)の認可を受けて決定し、公告する手続をとることになっています。
(注) 決済用貯金とは、「無利息、要求払、決済サービスを提供できること」という3要件を満たすものです。
(保険料率の推移)
一般保険料 | 特別保険料(注1) | ||
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昭和48年9月 (制度発足時)~ | 0.006% | - | |
昭和61年度 | 0.010% | - | |
昭和62年度 | 0.011% | ー | |
昭和63年度〜 | 0.012% | ー | |
平成8年度~ | 0.018% | 0.012% | |
平成13年度 | 特定貯金(注2) | その他貯金等 | 0.012% |
0.018% | 0.018% | ||
平成14年度 | 0.034% | 0.017% | - |
平成15年度 | 決済用貯金 | 一般貯金等 | - |
0.034% | 0.017% | ||
平成16年度~ | 0.017% | 0.014% | - |
平成22年度~ | 0.018% | 0.014% | - |
令和元年度~ | 0.013% | 0.008% | - |
令和4年度~ | 0.010% | 0.006% | - |
(注1)平成8年度~13年度の間に限定(貯金保険法附則第10条第1項)
(注2)特定貯金とは、当座貯金、普通貯金及び別段貯金をいいます。