平成14事業年度貯金保険機構年報
Ⅱ.業務の概況
農水産業協同組合貯金保険機構(以下「機構」という。)は、前記の系統信用事業を巡る情勢を踏まえ、貯金者の保護を図り、信用秩序の維持に資することを目的として、平成14事業年度に次の業務を行った。
1.保険料の徴収
平成14年の保険料は、各農協、漁協、信農連、信漁連及び農林中金の協力により適時に全額納付された。保険料の納付組合数及び金額は、農協が 1,074組合、15,198百万円、漁協が558組合、286百万円、信農連が46連合会、530百万円、信漁連が 34連合会、279百万円、農林中金が 639百万円、合計1,713団体、16,932百万円であった。
前年と比較すると、納付組合数は農協及び漁協の合併等により合計346団体の減少となったが、保険料は算出の基礎となる被保険貯金等の増加、保険料率の変更(特定貯金に係る保険料率は10万分の18から10万分の34、その他貯金等に係る保険料率は10万分の18から10万分の17)等により、合計2,819百万円の増加となった。
ただし、前年までは特例業務に係る特別保険料を受け入れていたことから、特別保険料を含めた金額と比較すると、合計 6,590百万円の減少となった。
2.資金援助の実施
(1) 既決定案件に係る資金援助
① 沖縄県信用農業協同組合連合会に対する資金援助の実施
平成14年3月12日に主務大臣から特別資金援助の認定を受け、平成14年3月13日の運営委員会で議決し決定した沖縄県信農連に対する与那国町農協の破綻処理にかかる資金援助については、平成14年4月1日に3億94百万円の金銭の贈与を実施した。
② 沖縄県農業協同組合に対する資金援助の実施
平成14年3月12日に主務大臣から特別資金援助の認可を受け、平成14年3月13日の運営委員会で議決し決定した沖縄県農協に対する沖縄県の8農協(やんばる、伊平屋村、伊是名村、ゆいな、沖縄市コザ、島尻東、久米島、八重山郡)の破綻処理にかかる資金援助については、平成14年4月9日に222億55百万円(返還後の確定額221億55百万円)の金銭の贈与を実施した。(平成14年3月22日に11億34百万円の資産の買取りを実施済み)
③ 高田郡農業協同組合に対する資金援助の実施
平成14年3月13日の運営委員会で議決、主務大臣の認可を受けて決定した高田郡農協に対する八千代町農協の破綻処理にかかる資金援助については、平成14年4月10日に27億80百万円(返還後の確定額24億35百万円)の金銭の贈与を実施した。(平成14年3月25日に13億41百万円の資産買取りを実施済み)
④ 広島市農業協同組合に対する資金援助の実施
平成14年3月13日の運営委員会で議決、主務大臣の認可を受けて決定した広島市農協に対する広島安佐農協の破綻処理にかかる資金援助については、平成14年4月10日に20億53百万円(返還後の確定額19億4百万円)の金銭の贈与を実施した。(平成14年3月25日に12億10百万円の資産買取りを実施済み)
⑤ 福山北農業協同組合に対する資金援助の実施
平成14年3月13日の運営委員会で議決、主務大臣の認可を受けて決定した福山北農協に対する府中市農協及び新市農協の破綻処理にかかる資金援助については、平成14年6月11日に20億25百万円(返還後の確定額17億25百万円)の金銭の贈与を実施した。(平成14年3月25日に9億18百万円の資産買取りを実施済み)
⑥ 大分県漁業協同組合に対する資金援助の実施
平成14年3月13日の運営委員会で議決、主務大臣の認可を受けて決定した大分県漁協に対する鶴見町漁協の破綻処理にかかる資金援助については、平成14年4月18日に4億17百万円の金銭の贈与を実施した。
(2) 新規案件に係る資金援助
(管理を命ずる処分に係る破綻処理)
大原町農業協同組合(岡山県)
大原町農協は、3回に渡る行政検査の拒否や元組合長による組合運営の私物化及び法令等に違反する資産運用を行っていたこと等前例のない不祥事が発覚したことから、このまま放置した場合、組合員に著しい不利益を与えるばかりでなく、多額の貯金が流失し貯払い停止に至るおそれがあるとして、岡山県知事は農水産業協同組合貯金保険法(以下「貯金保険法」という。)に基づき平成14年11月1日に管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分を発出すると同時に、機構、岡山県中央会及び弁護士の三者を管理人に選任した。
同日付で同農協の管理人(被管理組合)から、当機構に対し貯金の払戻しの原資とするため、貯金保険法に基づき貯払い資金借入の申込みがあり、即日、持ち回り運営委員会で議決、主務大臣の認可を受けて貯払い資金の貸付けを決定し、資金の貸付契約を締結し貸付を実施した(貸付金額58百万円)。更に同5日には、貯金者保護の一環として近隣の勝英農協(救済組合)へ付保貯金の移転を行うため、貯金保険法に基づき、勝英農協から資金援助(債務の保証)の申込みがあり、即日、持ち回り運営委員会で議決、主務大臣の認可を受けて資金援助を決定し、資金援助契約を締結(債務保証限度額62億87百万円)し、付保貯金移転を実行した。
なお、平成15年3月31日現在、管理人団は最終的な資産精査を行い、勝英農協に対する資金援助額(債務保証の履行額)の確定及び大原町農協の解散に向けての作業を進めているところである。
3.立入検査
貯金保険法では、同法の円滑な実施を確保する観点から、主務大臣(農林水産大臣、金融庁長官)又は都道府県知事が必要あると認める場合には、機構に農水産業協同組合に対する立入検査を行わせることができると規定されている。
機構が行うことができる立入検査は、貯金保険法第117条第6項に規定されており、
① 保険料の納付が適正に行われていること(同項第1号)
② 農水産業協同組合に義務付けられている名寄せのためのデータベース及びシステムの整備が講ぜられていること(同項第2号〈注〉)
③ 農水産業協同組合が破綻したときの貯金等債権について弁済を受けることができると見込まれる額(同項第3号)
の3項目となっている。
なお、この立入検査に対する忌避等については、罰則(貯金保険法第125条第2項)が設けられている。
機構は、平成14年度において貯金保険法第117条第6項第2号に基づく立入検査を6農業協同組合、2漁業協同組合、計8農水産業協同組合に対して実施した。[資料編.(5)「立入検査の実施状況」 参照]
〈注〉 改正貯金保険法が平成15年4月1日に施行されたことに伴い、現在、同法第117条第6項第2号の規定には、上記事項に加えて「支払対象決済用貯金に係る保険金の支払又はその払戻しが円滑に行われるよう機構による名寄せ結果データを速やかに処理するためのシステムの整備が講ぜられていること」が追加されている。
4.貯金保険制度の調査研究の実施
資金援助業務等の適正かつ円滑な実施の参考に供するため、平成14事業年度においては、米国の預金保険制度等に関する資料の収集、翻訳、検討を行った。
5.保険金支払業務等のシステム開発
貯金保険制度の下では、組合等が貯金等の払戻しができなくなった場合などに、貯金者の保護及び破綻組合に係る資金決済の確保を図り、信用秩序の維持に資するために、一定額まで貯金等が保護されている。
万一、組合等に保険事故が発生した場合には、多数の貯金者に対して一定期間内に円滑かつ迅速な保険金支払等が要求される。このため、保険金支払業務等を実施するためのシステムとして、現在、下記①及び②のシステム開発が既に完了している。
①「貯金等データ変換プログラム」
組合等において、破綻の際に貯金者データを遅滞なく所定のフォーマットに編集し、電子媒体として貯金保険機構に提出するためのプログラム
②「付保算定P&Aシステム」「保険金支払及び貯金等債権買取システム」
当機構において、組合等が破綻した際、当該組合等より速やかに所定の電子媒体により貯金者データの提出を受け、名寄せ・付保算定を行い、保険金支払業務、貯金等債権買取業務、精算払い業務等に対応するシステム
また、破綻処理手法として「信用事業の一部譲渡」及び「付保貯金移転」が制度化され、更に、平成14年4月より貯金が全額保護から一部定額保護へ移行(いわゆるペイオフ解禁)されたことに伴い、破綻公表に伴う信用不安を回避しつつ貯金者の生活や事業活動への影響を最小限に留め、円滑かつ迅速に破綻処理できるように破綻処理システムの確立が求められている。
このことから、平成14事業年度においては、下記③及び④のシステム開発・改善を行った。
③「付保貯金払戻システム」
組合等において、組合等破綻時に貯金保険機構から返却される名寄せ・付保算定データを基に、支払決済用貯金及び付保貯金の円滑な払戻し等の業務実施に対応するシステム
農協系統 | ジェイエイバンク電算システム(株) 九州地区(7県) 岩手県、秋田県、宮城県、青森県、山形県、栃木県、神奈川県、 京都府、奈良県、和歌山県、徳島県、愛媛県、愛知県、岐阜県 |
漁協系統 | (株)全国漁協オンラインセンター |
④「付保算定P&Aシステム」「保険金支払及び貯金等債権買取システム」の改善
当機構の既存システムの改善(「信用事業の一部譲渡」、「付保貯金移転」への対応)