平成13事業年度貯金保険機構年報
Ⅱ.業務の概況
農水産業協同組合貯金保険機構(以下「機構」という。)は、前記の系統信用事業を巡る情勢を踏まえ、貯金者の保護を図り、信用秩序の維持に資することを目的として、平成13事業年度に次の業務を行った。
1.保険料・特別保険料の徴収 (PDF形式)
平成13年の保険料は、各農協、漁協、信農連、信漁連及び農林中金の協力により適時に全額納付された。保険料・特別保険料の納付組合数及び金額は、農協が1,216組合、21,592百万円、漁協が762組合、432百万円、信農連が46連合会、585百万円、信漁連が34連合会、353百万円、農林中金が560百万円、合計2,059団体、23,522百万円であった。
前年と比較すると、納付組合数は農協及び漁協の合併等により合計310団体の減少となったが、保険料及び特別保険料は信農連、信漁連及び農林中金が貯金保険制度の対象になったことに加え、国、地方公共団体及び特殊法人からの貯金等が保険対象貯金になったこと等により合計2,575百万円の増加となった。
2.資金援助の実施 (PDF形式)
(1) 継続案件に係る資金援助
鹿児島県信用農業協同組合連合会に対する資金援助の実施
平成9年4月1日付けで契約した第3期(平成9事業年度から平成13事業年度までの5年間)の資金援助契約に基づき、平成14年2月27日に平成13事業年度分4億96百万円の金銭の贈与を実施した。
(2) 既決定案件に係る資金援助
山口はぎ漁業協同組合に対する資金援助の実施
平成13年2月22日の運営委員会で議決、主務大臣の認可を受けて決定した山口はぎ漁協に対する萩小畑漁協及び大井浦漁協の破綻処理に係る資金援助については、平成13年4月2日に17億35百万円の金銭の贈与を実施した。
(3) 新規案件に係る資金援助
(管理を命ずる処分に係る破綻処理)
① 日生町信用農業協同組合(岡山県)
日生町信用農協は、平成12年度決算において、日生町の基幹産業である内航海運業者、県外の産廃業者等への融資の固定化などにより、多額の債務超過に陥っていることが判明したため、平成13年5月31日、岡山県知事に対し、債務超過である旨の申し出を提出した。
これを受けて、岡山県知事は、農水産業協同組合貯金保険法(以下「貯金保険法」という。)に基づき、同日付けで、管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分を発出すると同時に、機構、岡山県中央会及び弁護士の三者を管理人に選任した。
その後、管理人による管理の下で、農協系統組織とともに、日生町信用農協の処理に向けた調整が行われてきたが、これが決着に達し、平成13年11月29日、農林水産大臣及び金融庁長官は、平成14年1月1日に同組合の信用事業を岡山県信農連に譲渡することについて、貯金保険法に基づき適格性の認定を行った。
平成13年12月11日に、農林水産大臣、財務大臣及び金融庁長官から特別資金援助(ペイオフコストを超える資金援助)を行う必要がある旨の認定を受けたことから、機構は、岡山県信農連からなされた資金援助の申込みに対して、同日、運営委員会を開催し、資金援助を行う旨を決議した。
機構は、平成13年12月17日に株式会社整理回収機構に委託して30億31百万円で日生町信用農協の資産を買い取り、平成14年1月4日に岡山県信農連に対し212億47百万円の金銭の贈与を実施した。
なお、日生町信用農協は、上記信用事業の譲渡が行われる日に、共済事業を全共連へ包括移転した上で、解散した。
② 与那国町農業協同組合(沖縄県)
与那国町農協は、製糖工場を中心とした加工事業に大きく依存する中で、台風被害により工場の操業率が低下し農協経営が悪化するとともに、農家組合員の農業収入の減少による融資の固定化などにより、平成12年度決算では、多額の債務超過に陥っていることが判明した。このため、同組合は、沖縄県知事に対し、債務超過である旨の申し出を行い、これを受け、沖縄県知事は、貯金保険法に基づき、平成13年9月14日、管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分を発出すると同時に、機構、沖縄県中央会及び弁護士の三者を管理人に選任した。
その後、管理人による管理の下で、県系統とともに、与那国町農協の迅速な処理に向けた調整が行われてきたが、平成14年3月1日、農林水産大臣及び金融庁長官は、平成14年3月31日に同組合の信用事業を沖縄県信農連に譲渡することについて、貯金保険法に基づき適格性の認定を行った。
平成14年3月12日に、農林水産大臣、財務大臣及び金融庁長官から特別資金援助(ペイオフコストを超える資金援助)を行う必要がある旨の認定を受けたことから、機構は、沖縄県信農連からなされた資金援助の申込みに対して、平成14年3月13日、運営委員会を開催し、資金援助を行う旨を決議した。
なお、機構は、平成14年4月1日に沖縄県信農連に対し3億94百万円の金銭の贈与を実施した。
与那国町農協は、上記信用事業の譲渡が行われる日に、共済事業を全共連へ包括移転した上で、解散した。
(その他の破綻処理)
③ 釧路市農業協同組合(北海道)
釧路市農協は、不動産担保融資に偏重した事業展開や子会社による不動産事業を推進してきたが、平成11年度決算において、バブル崩壊による地価の下落の影響を受けるなどにより多額の不良債権を抱え、債務超過であることが判明したため、平成12年7月に近隣農協との合併を内容とする経営改善計画を策定した。
その後、近隣農協との合併に向けて調整が行われてきたが、これが決着に達し、平成13年7月23日、北海道知事は、平成13年8月1日に釧路市農協を阿寒町農協が吸収合併することについて、貯金保険法に基づき適格性の認定を行った。
これを受けて、機構は、阿寒町農協からなされた資金援助の申込みに対して、平成13年7月24日、運営委員会を開催し、資金援助を行う旨を決議した。
機構は、平成13年7月31日に株式会社整理回収機構に委託して1億95百万円で釧路市農協の資産を買い取り、平成13年8月13日に阿寒町農協(合併時に阿寒農協に名称変更)に対し40億57百万円の金銭の贈与及び2億50百万円の劣後ローンの供与を実施した。
④ 湧別町畜産農業協同組合(北海道)
湧別町畜産農協は、貸付先である一部の畜産農家の経営悪化から、平成12年度決算において、債務超過に陥ったことが判明したため、平成13年6月に近隣農協との合併を内容とする経営改善計画を策定した。
その後、近隣農協との合併に向けて調整が行われてきたが、これが決着に達し、平成13年12月27日、北海道知事は、平成14年2月1日に同組合を湧別農協及び芭露農協が救済合併することについて、貯金保険法に基づき適格性の認定を行った。
平成14年1月23日に、農林水産大臣、財務大臣及び金融庁長官から特別資金援助(ペイオフコストを超える資金援助)を行う必要がある旨の認定を受けたことから、機構は、救済組合となる湧別農協及び芭露農協からなされた資金援助の申込みに対して、平成14年1月23日、運営委員会を開催し、資金援助を行う旨を決議した。
機構は、湧別町農協(湧別農協、芭露農協及び湧別町畜産農協の合併により設立された新設組合)に対し、平成14年2月5日に7億93百万円の金銭の贈与を、平成14年2月13日に1億17百万円の劣後ローンの供与を実施した。
⑤ 沖縄県下8農業協同組合
沖縄県の8農協(やんばる、伊平屋村、伊是名村、ゆいな、沖縄市コザ、島尻東、久米島、八重山郡)は、バブル期における不動産業等に対する安易な貸出の増加及び農産物価格の下落や自然災害等による農家負債の増加に対する与信管理の不徹底等を背景に、累年、これら組合の財務内容が悪化し、平成12年度決算において、多額の債務超過に陥っていることが判明した。
このため、県系統では、新たに組織再編により設立する県単一農協を救済組合とする方針を決定し、県下19農協(伊江村、サンライズ、宜野湾市、浦添市、首里、真和志、小禄、豊見城村、糸満市、おきなん、南風原町、津嘉山、渡嘉敷村、粟国村、南大東村、北大東村、宮古郡、下地町、伊良部町)において合併の実現に向けて調整が行われてきたが、これが決着に達し、平成14年2月26日、沖縄県知事は、平成14年4月1日に上記8農協を県単一農協となる沖縄県農協が吸収合併することについて、貯金保険法に基づき適格性の認定を行った。
平成14年3月12日に、農林水産大臣、財務大臣及び金融庁長官から特別資金援助(ペイオフコストを超える資金援助)を行う必要がある旨の認定を受けたことから、機構は、上記19農協からなされた資金援助の申込みに対して、平成14年3月13日、運営委員会を開催し、資金援助を行う旨を決議した。
機構は、平成14年3月22日に株式会社整理回収機構に委託して11億34百万円で6農協(やんばる、ゆいな、沖縄市コザ、島尻東、久米島、八重山郡)の資産の買取りを実施した。
なお、機構は、平成14年4月9日に沖縄県農協(新たに設立された県単一農協)に対し222億55百万円の金銭の贈与を実施した。
⑥ 八千代町農業協同組合(広島県)
八千代町農協は、組合員、員外である地元企業等へのずさんな融資、大口信用供与限度を超えた貸付け等により多額の不良債権を抱え、平成11年度決算において、債務超過に陥ったことから地元系統に支援を要請した。このため、系統では、合併を前提とした経営改善を進めていたが、貸付金の回収等が計画どおり進まなかったこと等から、多額の債務超過であることが判明した。
その後、近隣農協との合併に向けて調整が行われてきたが、これが決着に達し、平成14年3月12日、広島県知事は、平成14年4月1日に八千代町農協を高田郡農協が吸収合併することについて、貯金保険法に基づき適格性の認定を行った。
これを受けて、機構は、高田郡農協からなされた資金援助の申込みに対して、平成14年3月13日、運営委員会を開催し、資金援助を行う旨を決議した。
機構は、平成14年3月25日に系統債権管理回収機構株式会社に委託して13億41百万円で八千代町農協の資産の買取りを実施した。
なお、機構は、平成14年4月10日に高田郡農協に対し27億80百万円の金銭の贈与を実施した。
⑦ 広島安佐農業協同組合(広島県)
広島安佐農協は、バブル期に行った大規模な工業団地造成や大型ショッピングセンターの事業不振等により貸付金の回収が困難になったこと等から、不良資産を抱え、多額の債務超過であることが判明したため、自主再建を断念し、平成13年11月に近隣農協である広島市農協に対し、合併の申込みを行うとともに、県内系統へ支援要請を行った。
その後、広島市農協との合併に向けて調整が行われてきたが、これが決着に達し、平成14年3月12日、広島県知事は、平成14年4月1日に広島安佐農協を広島市農協が吸収合併することについて、貯金保険法に基づき適格性の認定を行った。
これを受けて、機構は、広島市農協からなされた資金援助の申込みに対して、平成14年3月13日、運営委員会を開催し、資金援助を行う旨を決議した。
機構は、平成14年3月25日に株式会社整理回収機構に委託して12億10百万円で広島安佐農協の資産の買取りを実施した。
なお、機構は、平成14年4月10日に広島市農協に対し20億53百万円の金銭の贈与を実施した。
⑧ 府中市農業協同組合・新市農業協同組合(広島県)
府中市農協は、貸出先地元企業の経営悪化による不良債権の増加に加え、有価証券の含み損により、また、新市農協は、有価証券の含み損及び販売用土地の評価損等から、不良資産を抱え、多額の債務超過であることが判明したため、県内系統に支援要請を行った。
その後、近隣農協との合併に向けて調整が行われてきたが、いずれも近隣の福山北農協が吸収合併することに決着し、平成14年3月12日、広島県知事は、平成14年6月1日に府中市農協及び新市農協を福山北農協が吸収合併することについて、貯金保険法に基づき適格性の認定を行った。
これを受けて、機構は、福山北農協からなされた資金援助の申込みに対して、平成14年3月13日、運営委員会を開催し、資金援助を行う旨を決議した。
機構は、平成14年3月25日に株式会社整理回収機構に委託して9億18百万円で府中市農協及び新市農協の資産の買取りを実施した。
なお、機構は、平成14年6月11日に福山北農協に対し20億25百万円の金銭の贈与を実施した。
⑨ 鶴見町漁業協同組合(大分県)
鶴見町漁協は、基幹漁業であるまき網漁業者の減船・廃業等一部の漁業者の経営不振による貸出金の延滞、漁船油代金の未収等による財務内容の悪化から、平成12年度決算において、多額の債務超過に陥っていることが判明した。
このため、県系統では、平成13年7月、新たに組織再編により設立する県単一漁協を救済組合として処理する方針を決定し、県下26漁協(中津市、宇佐市、豊後高田市、真玉町、香々地町、国見町、姫島村、くにさき、武蔵町、安岐町、杵築市、日出町、別府市、大分市、神崎、佐賀関町、臼杵市、津久見市、保戸島、上浦町、佐伯市、米水津村、上入津、下入津、蒲江、名護屋)において合併の実現に向けて調整が行われてきた。
その後、これが決着し、平成14年3月4日、大分県知事は、平成14年4月1日に鶴見町漁協を県単一漁協となる大分県漁協が吸収合併することについて、貯金保険法に基づき適格性の認定を行った。
これを受けて、機構は、受け皿となる上記26漁協からなされた資金援助の申込みに対して、平成14年3月13日、運営委員会を開催し、資金援助を行う旨を決議した。
なお、機構は、平成14年4月18日に大分県漁協(新たに設立された県単一漁協)に対し4億17百万円の金銭の贈与を実施した。
3.貯金保険制度の調査研究の実施
資金援助業務等の適正かつ円滑な実施の参考に供するため、平成13事業年度においては、米国の預金保険制度等に関する資料の収集、翻訳、検討を行った。
4.保険金支払業務等システム開発
万一、組合に保険事故が発生した場合には、多数の貯金者に対して一定期間内に円滑かつ迅速な保険金支払が要求される。
このため、平成9事業年度から3カ年間で保険金支払事務を電算化するためのシステム開発に着手し、平成11事業年度で基幹となるシステムについての開発を終了したところである。
その後、平成12事業年度においては、貯金保険法の改正により新たに1,000万円までの元本に係る利息についても保険金支払の対象となるなどの制度の大幅改正に対応した当該システムの追加開発及びプログラム修正を実施したところである。
このことと併せて、ペイオフ解禁後の保険金支払等の円滑な実施のためには、事故組合の貯金等データを当機構のシステムが認識し得るデータ形式により取り込む必要があり、このシステム整備のため、
① 農協系統では、各都道府県信農連ごとに運営されている信用事業システムを共同運営システムに移行し、全国一元化されるまでの間(平成18年度予定)の対応として、平成10事業年度から平成13事業年度までの4カ年計画で各信農連の電算センター等にデータ変換プログラムの開発委託を個別に実施
〈漁協系統においては、平成11事業年度に当該プログラムの開発を終了〉
② 系統電算センターに加盟していない組合についても、平成12事業年度から平成13事業年度までの2カ年計画でペイオフ解禁までの間に同様のプログラムの開発委託を個別に実施したところである。
各事業年度におけるプログラム開発状況は、別表のとおりとなっている。