貯金保険制度及び貯金保険機構の概要
Ⅱ.貯金保険の仕組みと現状
1.保険関係
(1)保険関係の成立
貯金者が組合に貯金を預け入れると、その貯金の払戻しにつき、一定の金額の範囲内で、その貯金者、組合、貯金保険機構の間に自動的に保険関係が成立する。
すなわち、貯金者を保険金受取人として、組合は保険料を負担し、組合に万一保険事故が発生した場合に貯金保険機構が保険金を支払うという三者間の保険関係が、貯金者あるいは組合が個別に保険の加入手続をとることなく成立し、その組合が貯金の残高を有する限り、保険関係が存続することになる。
(2)対象組合
この制度の対象となる組合は、貯金の受入れを現に行っている農協、漁協、水産加工協、信農連、信漁連、水産加工連、農林中金である。
(3)対象貯金
この制度の対象となる貯金は、貯金(農林中金が受け入れた預金を含む。)、定期積金、元本補てん契約のある金銭信託(貸付信託を含む。)及び農林債券(保護預り専用商品に限る。)である。
ただし、外貨貯金、譲渡性貯金、金融機関の貯金、無記名貯金等を除く。
なお、外貨貯金は、貯金等債権の買取りの対象とされている。
(4)保険事故
保険金の支払の原因となる保険事故には次の2種類がある。
① 第一種保険事故 [貯金の払戻しの停止]
組合が貯金の払戻しを継続的に行わない状態がこれにあたる。
貯金保険機構は保険事故発生後1カ月以内に運営委員会を開催し、保険金の支払をするかどうかを決定することとなっている。
また、保険金の支払を決定したときは、支払方法等の公告を行う。
なお、この運営委員会による支払決定の期限は更に1カ月を限度として延長することができるとされている
② 第二種保険事故
この場合は、運営委員会において保険金支払の方法等に関する公告事項を議決して保険金の支払が行われる。
2.保険料
(1)保険料・特別保険料の納付
組合は、毎年6月30日までに保険料を貯金保険機構に納付しなければならない。
また、平成14年3月31日までの特例措置(特別資金援助、貯金等債権の特別買取り)に係る費用に充てるため、組合は通常の保険料に加えて平成13年まで特別保険料を貯金保険機構に納付しなければならない。
なお、貯金保険機構は、保険料・特別保険料の受入れ事務を信農連、信漁連(又は農林中金)に委託して行っている。
(2)保険料・特別保険料の額
保険料は、前年4月~3月末の営業日の対象貯金の平均残高に保険料率を乗じた額である。
ただし、平成13年に納付する保険料に係る対象貯金の残高は、平成13年3月末の貯金残高とする。
また、保険料率は、以下のとおりとされている。
○一般保険料率
(当座貯金、普通貯金、別段貯金)
その他貯金等 10万分の18
○特別保険料率 10万分の12
(平成8年から平成13年まで。3.(3)の特例措置の財源)
3.保険金及び仮払金
保険事故が発生したときは、所定の手続を経て、保険金及び仮払金の支払を行う。
(1)仮払金の支払
保険事故が発生したときは、貯金者の当座の生活資金などに充てるため、1週間以内に運営委員会の議決を経て、仮払金(普通貯金口座の残高について、60万円を限度)の支払を行うか否かを決定する。
また、仮払金の支払が決定された場合には、支払に係る手続に関して運営委員会の議決を経て、公告(組合店頭掲示、官報・新聞掲載等)を行う。
仮払金は、その後行われる保険金支払の内払であるので、超過して仮払金の支払を受けた貯金者は、その超過額を貯金保険機構に返還することとなる。
(2)保険金の額
保険金の支払限度額は、保険事故発生日現在、貯金者が組合に持っている貯金の1,000万円までの元本とそれに係る利息の合計額となっている。
また、保険金の支払に際し、保険金のうちの利息の額に相当する部分については、利子課税の対象となる。
なお、貯金者が貯金を担保として提供している場合には、その被担保債権が消滅するまでの間は、保険金の支払が保留される。
支払限度額を超える元本とそれに係る利息については、別途貯金等債権の買取りの対象となる。
[4.貯金等債権の買取り参照]
(3)特例措置
決済性貯金(当座貯金、普通貯金、別段貯金)に限っては、平成15年3月末まで全額保護されることになっている。
注: 平成14年3月末までは、保険対象貯金について、貯金等債権の特別買取りと併せ、実質的に貯金の全額が保護されている。
(4)保険金が支払われない貯金
次の貯金については保険金の支払は行われない。
○外貨貯金
○譲渡性貯金
○特別国際金融取引勘定において経理された貯金(オフショア貯金)
○日本銀行、組合その他の金融機関からの貯金
○貯金保険機構からの貯金
○農林債券(募集債又は債券が交付されたもの)
○無記名貯金
○架空名義貯金
○導入貯金など
(5)保険金の支払方法
貯金保険機構の保険金の支払方法には、貯金者に直接現金等により支払う方法のほか、円滑かつ迅速な支払事務処理や現金取扱いのリスク回避の観点から、他の健全な金融機関に、貯金保険機構が保険金支払相当額の普通預貯金を設定し、これを貯金者に譲渡する方法もある。
(6)仮払金・保険金支払の実績
制度発足以来、保険金及び仮払金の支払の実績はない。
(7)保険金及び仮払金の支払業務の委託
貯金保険機構は、保険金及び仮払金の支払を決定したときは、組合その他の金融機関に対して、保険金及び仮払金の支払その他これに附随する業務を委託することができる。
4.貯金等債権の買取り
(1)制度の概要
貯金者の負担を軽減し、債権の円滑な回収と清算手続を迅速化すること等を目的とし、保険金の支払限度額を超える貯金の元本及びその利息を、概算払率(破産手続における回収見込額を考慮して設定)により算出された概算払額によって貯金保険機構が貯金者から買い取る制度である。
(2)買取りの方法
保険金の対象貯金及び外貨貯金のうち、担保権の目的となっているものを除き、運営委員会の議決を経て、公告した買取期間内に買取りが行われる。その支払方法は、保険金の場合と同じである(現金等による直接支払、預貯金設定)。
また、買取りに際し、概算払額のうちの利子とみなされる部分については、利子課税の対象となる。
なお、組合の清算終了後、貯金保険機構の受けた配当額が、概算払額とそれに要した諸費用の合計額を上回った場合には、貯金者に対し精算払を行う。
(3)特例措置
主務大臣(農林水産大臣、財務大臣及び金融庁長官をいう。以下同じ。)が信用秩序の維持のため、破産手続における回収見込額を超える特別払戻率を定めた場合は、これに基づき算出される額により、貯金等債権の特別買取りが行われる(平成14年3月31日まで)。この措置により、保険金の支払と併せ、実質的に貯金の全額保護が可能となっている。
5.資金援助
(1)資金援助の対象
合併等(吸収又は新設合併、信用事業の全部又は一部譲渡、付保貯金移転をいう。以下同じ。)により、経営困難組合を救済処理しようとする組合(以下「救済組合」という。)に対して、貯金保険機構は、直接的に資金援助を行うことができる。
なお、信用事業の一部譲渡又は付保貯金移転を行う場合に限り、貯金保険機構は、経営困難組合に対して、債権者間の衡平を図るための資金援助を行うことができる。
また、経営困難組合の合併等について相互援助制度を通じて援助する連合会等(信農連、信漁連、水産加工連及び農林中金をいう。以下同じ。)に対して、貯金保険機構は、間接的に資金援助を行うことができる。
更に、相互援助制度に基づき、連合会等が救済組合等に対し、資金の貸付けその他の援助(連合会等がその子会社又は協定債権回収会社に行わせる資産の買取りその他の援助を含む。)を行う場合において、貯金保険機構がその連合会等に資金援助を行うことができる。
(2)資金援助の方法
救済組合に対する資金援助の方法には、金銭の贈与、資金の貸付け又は預入れ、資産の買取り、債務の保証又は引受け、優先出資の引受け等(優先出資の引受けと劣後ローンの供与をいう。)、損害担保の8方式が、相互援助制度により援助を行う連合会等に対しては、金銭の贈与、資金の貸付け又は預入れ、債務の保証の4方式がある。
また、貯金保険機構は、資金援助に係る合併等の後、救済組合又は合併により設立された組合から追加の資金援助の申込みを受けた場合において、必要があると認めるときは、追加の資金援助を行うことができる。
なお、優先出資の引受け等を申し込むときは、貯金保険機構に対し、財務内容の健全性の確保等のための計画を提出することとされている。
(3)資金援助の限度額と特例措置
資金援助額は、通常ペイオフコスト(保険金の支払に必要な費用)の範囲までとされているが、特例措置(平成14年3月31日まで)の期間中は、主務大臣が信用秩序維持のため必要と認めた場合には、ペイオフコストを超えて資金援助を行うことができる。
(4)適格性の認定
救済組合又は連合会等が貯金保険機構の資金援助を受けようとするときは、あらかじめ都道府県知事又は主務大臣(この場合は、農林水産大臣及び金融庁長官をいう。以下この項について同じ。)による適格性の認定を受けなければならない。ただし、合併等について都道府県知事又は主務大臣のあっせんを受けた場合は、この必要はない。
なお、都道府県知事がこの認定又はあっせんを行うときは、主務大臣の事前承認が必要である。
(5)資金援助の決定
貯金保険機構は、資金援助の申込みがあったときは、遅滞なく、運営委員会の議決を経て資金援助を行うかどうかを決定する。なお、この決定をしようとするときは、主務大臣の認可を受けなければならない。
(6)資金援助契約及びその履行
資金援助を決定したときは、貯金保険機構は、資金援助の申込みを行った救済組合又は連合会等と資金援助に関する契約を締結し、合併等が行われた日以降に、契約に基づく資金援助を履行する。
ただし、経営困難組合から資産の買取りを行う場合は、当該組合の合併等が行われる日以前の日までに、経営困難組合との連名による契約(協定債権回収会社に資産の買取りを委託する場合は、経営困難組合と当該会社との契約)に基づく資産の買取りを履行する。
6.協定債権回収会社
貯金保険機構は、債権回収会社との間で協定を締結し、その協定を実施するため各種業務を行うことができることとされている。
具体的には、協定債権回収会社に対し、
① 協定の定めによる回収業務の円滑な実施に必要な資金の出資を行うこと
② 協定の定めによる業務の実施により協定債権回収会社に生じた損失の補填を行うこと
③ 協定の定めによる資産の買取りのために必要とする資金その他回収業務の円滑な実施のために必要とする資金について、協定債権回収会社からの申込みに基づき、資金の貸付け又は資金の借入れに係る債務の保証を行うこと
④ 協定の定めによる業務の実施により協定債権回収会社に生じた利益の納付を受けること
⑤ 回収業務の実施に必要な指導及び助言を行うこと
等ができる。
7.管理人による管理
都道府県知事又は主務大臣(この場合は、農林水産大臣及び金融庁長官をいう。)は、組合が債務超過又は貯金の払戻しの停止のおそれ等があると認めて、「管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分」(以下「管理を命ずる処分」という。)を行うときは、一人又は数人の管理人を選任することとされており、貯金保険機構は、法人として管理人になることができる。貯金保険機構が、管理人に選任された場合には、他に選任された管理人と連携して、その業務に当たることとなる。
管理人の主な業務は、
① 被管理組合の業務の執行及び財産の管理処分
② 被管理組合の役員等の経営責任の追及
③ 受皿組合への事業承継(合併又は事業譲渡)
等である。
8.金融危機への対応のための業務
主務大臣(この場合は、農林水産大臣及び金融庁長官をいう。)は、次の①、②の措置を講じなければ我が国又は当該組合が業務を行っている地域の信用秩序維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認めるときは、金融危機対応会議(内閣総理大臣が議長)の議を経て、当該措置を講ずることができる。
① 組合(②の組合を除く。)に対し、自己資本充実のために貯金保険機構が行う優先出資の引受け等
② 経営困難又は債務超過の組合に対し、保険金の支払に必要な費用の額を超える額の貯金保険機構が行う資金援助
(この場合は、貯金保険機構は、主務大臣の命を受けて上記措置に関する業務を行うこととなるが、②の措置を受ける組合には、管理を命ずる処分が行われる。)
※必要な財源:組合の負担金(負担金で不足するときは政府の補助)
借入限度額:1,000億円(国会の議決による政府の債務保証あり)
9.その他の貸付け業務
(1)貯金等の払戻しのための資金の貸付け
管理人による管理を命ずる処分を受けた組合又は民事再生法に基づく管財人若しくは保全管理人による管理を命ずる処分を受けた経営困難組合に対し、貯金保険機構は、運営委員会の議決後、主務大臣の認可を受けて、貯金等の払戻しのために必要な資金の貸付けを行うことができる。
(2)資産価値の減少防止のための資金の貸付け
管理人による管理を命ずる処分を受けた組合(再生手続開始の申立後のものに限る。)又は民事再生法に基づく管財人若しくは保全管理人による管理を命ずる処分を受けた経営困難組合に対し、貯金保険機構は、運営委員会の議決後、主務大臣の認可を受けて、資産価値の減少防止のために必要な資金の貸付けを行うことができる。
10.立入検査業務
機構は、主務大臣(この場合は、農林水産大臣及び金融庁長官をいう。)又は都道府県知事から必要と認めて立入検査を命じられたときは、
① 定められた保険料の納付が適正に行われていること
② 名寄せのためのデータベース及び電子情報処理組織の整備その他の措置が講ぜられていること
③ 概算払率算定のために必要な貯金等債権について弁済を受けることができると見込まれる額
について調査するために、組合の事務所その他施設に立ち入るなどして、質問又は検査を行うこととされている。
11.その他
農水産業協同組合の再生手続の特例等に関する法律(再生特例法)に基づく貯金者代理の業務
組合の迅速かつ円滑な破綻処理を行うため、再生特例法に基づき、貯金保険機構は、貯金者表を作成して、裁判所に提出することにより、貯金者を代理して、再生手続又は破産手続に関する一切の行為をすることができることとされている。