平成16事業年度貯金保険機構年報 Ⅱ.業務の概況

1.業務概要

(1)保険料の徴収
平成16年度の保険料は、各農協、漁協、信農連、信漁連及び農林中金の協力により適時に全額納付された。保険料の納付組合数及び金額は、農協が 919組合、11,203百万円、漁協が386組合、163百万円、信農連が46連合会、314百万円、信漁連が 34連合会、198百万円、農林中金が 356百万円、合計1,386団体、12,234百万円であった。((資料7)「平成16年保険料(都道府県別)」参照)前年と比較すると、平成16年度においては、これまでの組合の破綻の状況及び機構の財政状況等を勘案し、保険料率の引下げを実施したことから、保険料は、合計5,346百万円の減少となった。なお、納付組合数は、農協及び漁協の合併等により合計106団体の減少となった。
(参 考)
平成16年度の保険料率〈(  )は平成15年度〉
決済用貯金 10万分の17(10万分の34)
一般貯金等 10万分の14(10万分の17)

(2)貯金保険業務関連
① 農水産業協同組合の破綻処理
平成16年度においては、平成14年度まで発生していた信用事業を行う農水産業協同組合(以下「組合」という。)の破綻は、平成15年度に引き続き0件であった。
なお、平成16年度においては破綻処理に伴う資金援助の実行はなかったが、これまでの資金援助実施の対象となった破綻組合の累計は、16年度末現在で32件(うち漁協6件)、金銭贈与939.6億円、資産の買取88.6億円、債務の保証62.9億円、貸付金等27.7億円となっている。
② 定額保護下における破綻処理方式の検討
貯金等の保護については、平成14年度から定期貯金等が定額保護に移行したことに伴い、機構では、平成15年度に構築した定額保護下での破綻処理スキーム等について、円滑な運用ができるよう検討を重ねてきた。
このスキームは、全額保護下と同様資金援助方式を基本としているが、破綻処理は倒産法制を活用して行われることとなる。(「3.定額保護下における破綻処理方式」参照)
③ 債権回収、不動産管理処分
機構は、債権回収及び不動産管理処分等について、協定債権回収会社である(株)整理回収機構及び系統債権管理回収機構(株)に委託しているが、平成16年度における債権回収額は約1,561百万円、不動産処分は約274百万円であった。これらの債権回収や不動産処分にあたっては、一括売却等により迅速な回収等や処分手法の多様化を図っている。
④ 管理人業務等検討委員会
機構では、定額保護下の司法手続を活用した組合の破綻処理において、機構が管理人に選任された場合に担当する業務等の適正かつ迅速な遂行を確保するため、平成15年11月に「管理人業務等検討委員会」を設置した。
平成16年度においては、特に、組合の破綻処理に際し裁判所に提出する民事再生申立に係る書式等について検討を行うとともに、平成17年3月10日には模擬債権者集会を実施した。
なお、平成16年度において、同委員会は4回開催された。
⑤ 貯金保険制度説明会の開催
機構は、定額保護下における破綻処理スキーム等について各都道府県の系統団体の関係者等の理解を深めるとともに、管理人候補者の養成を図るため、平成16年12月21日及び22日に貯金保険制度説明会を開催した。

(3)立入検査
機構は、平成16年度においては、貯金保険法第117条第6項第2号の立入検査を25農協、8漁協、計33組合に対して実施した。((資料5)「立入検査の実施状況」参照)

(4)貯金者データ整備説明会
ペイオフの本格実施を控え各組合における貯金者データの整備については、正しい理解に基づく取組みの推進を期するため、県・信農連・信漁連・農協・漁協を対象に計28回にわたり貯金者データ整備に係る説明会を実施した。

(5)保険金支払業務等のシステム開発
万一、組合に保険事故が発生した場合には、多数の貯金者に対して一定期間内に円滑かつ迅速な保険金支払等を実施することが要求される。
このため、組合及び機構では整備が必要な下記のシステム開発が完了している。

① 整備済システム
1)「貯金等データ変換プログラム」
組合が破綻した際、当該組合が遅滞なく貯金者データを所定のフォーマットに編集し、電子媒体として機構に提出するためのプログラム
2)「付保算定P&Aシステム」「保険金支払及び貯金等債権買取システム」
組合が破綻した際、当該組合から所定の電子媒体により提出された貯金者データを基に、機構が貯金保険で保護される貯金等(以下「付保貯金」という。)の額を貯金者ごとに算定(以下「名寄せ」という。)し、保険金支払業務、貯金等債権買取業務、精算払い業務等に対応するためのシステム
3)「付保貯金払戻システム」
組合が破綻した際、機構での名寄せ等の後に組合に返却される名寄せ・付保算定データを基に、付保貯金の円滑な払戻し等の業務を実施するためのシステム
② 金月処理に係るシミュレーションテスト
組合の万一の経営破綻に際し、金月処理を確実かつ円滑に実施するため、現行システムによる名寄せが正確に行えるか否か及び月曜日から業務再開ができるか否かについて、シミュレ-ションを行った。
テスト結果においては、金曜日の破綻認定から月曜日の業務再開までのシステム処理は、正常に作動し、予定どおり実行できることが確認された。
(6)広報・調査研究活動

① 広報、情報公開等
機構は、貯金保険制度が広く貯金者等に理解されることが重要であるとの認識のもと、従来から広報活動を展開してきたが、平成16年度においては、平成17年4月以降のペイオフ本格実施を控え、平成17年2月にリーフレット及びポスターを関係機関を通じて組合に配布するとともに、ホームページ等を通じて情報提供を行った。また、平成17年3月には「貯金等の保護の内容」についての新聞広告を行った。
さらに、組合等に、貯金保険制度の仕組みと機能についての理解を深めてもらうため、平成15年4月版の「貯金保険制度の概要」及び「貯金保険制度のQ&A」に所要の改訂を行った上、これらを合冊した「貯金保険制度の解説」を作成した。一方、破産法等の施行に伴い、「貯金保険制度関係法令・規定集」の改訂版を作成し関係機関を通じて組合等に配布した。

② 貯金保険制度の調査研究の実施
資金援助業務等の適正かつ円滑な実施の参考に供するため、平成16年度においては、米国の預金保険制度等に関する資料の収集、翻訳を行った。2.組合の破綻

平成16年度において組合の破綻はなかった。

組合の破綻件数の推移(単位:件)

年度 S.62 H.5 H.8 H.9 H.10 H.11 H.12 H.13 H.14 H.15 H.16 合計
総件数 1 1 1 2 3 4 2 17 1 0 0 32
農協 1 1 0 2 2 3 0 16 1 0 0 26
漁協 0 0 1 0 1 1 2 1 0 0 0 6

3.定額保護下における破綻処理方式 破綻処理の方法には、保険金を直接各貯金者等に支払う方式(ペイオフ方式)と、救済組合に破綻した組合の信用事業の全部又は一部を移管し、資金援助を行う方式(資金援助方式)があるが、平成11年12月の金融審議会答申では「金融機関が破綻した場合には、破綻処理に要するコストがより小さいと見込まれる処理方法を選択するとともに、破綻に伴う混乱を最小限に止めることが重要であり、金融機関の破綻処理方式としては、資金援助方式の選択を優先し、保険金支払いの発動は出来るだけ回避すべきである」との破綻処理の基本的な方針が示されている。このことから、定額保護下においても、全額保護下同様、資金援助方式の選択を優先することになるが、付保貯金以外の貯金や一般債権は、破綻組合の財産の状況に応じて弁済されることから、貯金者や債権者の平等を保ち、資産の流出を防ぐために、組合の事業に制約を課して財産を保全することが必要になる。そのため、定額保護下の破綻処理は、裁判所の監督下に置かれる倒産法制を活用することとなり、またこれにより時間的にも制約を受けることから、全額保護下での破綻処理以上に困難を伴うことが想定される。
機構では、かかる定額保護下での破綻処理スキーム及び管理人業務について以下の方向で検討している。
(1)基本スキーム概要
スキームの前提としては、付保貯金の算定(名寄せ)・資産切り分け作業等の十分な事前準備ができない場合を想定している。
①  破綻直後に、破綻組合と救済組合との間で「8ヶ月を目処に付保貯金、決済業務及び健全資産を救済組合へ移転すること」を主たる内容とする、信用事業に関する基本合意を締結する。
②  破綻組合は民事再生手続開始を申立し、付保貯金算定作業後に、付保貯金の払戻しや決済業務、融資業務を再開、継続する。
③  また、資産の切り分け作業を実施し、8ヶ月を目処に救済組合へ付保貯金と健全資産を譲渡するが、それ以外の貯金や一般債権者に対する債務については残余財産に応じ、民事再生計画に基づいて弁済される。
(2)想定される管理人業務
①  従来、金融機関の破綻は週末に発生している事例が多いことから、週末の金曜日に破綻が発生するケースを想定している。破綻発生と同時に、都道府県知事より管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分(以下「管理を命ずる処分」という。)が発動され、管理人が選任される。
②  破綻直後、破綻組合は救済組合と信用事業譲渡に関する基本合意を締結する。
③  民事再生手続開始申立を行う。
④  土曜日から日曜日までの間に、月曜日からの業務再開に向けて以下のような準備を行う。
・ 外部チャネルの一斉閉塞、名寄せによる付保貯金算定作業、付保貯金の払戻し準備、保護しない決済債務の抽出、貯金者申出による相殺等の新たな業務への準備等
・ 破綻組合職員に対する今後の業務体制等の指導
・ 経営体制の見直し、諸商品の見直し
・ 融資基準の見直し
・ 顧客の混乱防止を目的とした広報の徹底
⑤  月曜日に付保貯金払戻しや決済業務、融資業務を再開。店頭混乱防止を図る。
⑥  貸出資産等の資産切り分け作業を実施する
⑦  8ヶ月後を目処に付保貯金や健全資産を救済組合に譲渡し、不良資産はサービサーへの売却や協定債権回収会社への買取り委託により処分する。
⑧  約1年後に、破綻組合の残余財産は再生計画に基づき弁済される。
⑨  この間、裁判所、都道府県、関係外部機関、及び機構本体を相手とする多数の業務を行う。 4.管理人業務 都道府県知事は、組合に対して管理を命ずる処分を行った場合、機構を管理人に選任することがある。平成16年度は管理を命ずる処分は1件も行われておらず、機構が管理人に選任された実績はない。
なお、過去、管理を命ずる処分を受けた組合(以下「被管理組合」という。)の処理状況は、以下のとおりであり、いずれも機構が管理人の一に選任された。
○日生町信用農協(平成13年5月31日 管理を命ずる処分)
13.10.24 岡山県信用農業協同組合連合会と信用事業譲渡契約締結
14. 1. 1 同連合会に信用事業譲渡
○与那国町農協(平成13年9月14日 管理を命ずる処分)
14. 1.31 沖縄県信用農業協同組合連合会と信用事業譲渡契約締結
14. 3.31 同連合会に信用事業譲渡
○大原町農協(平成14年11月1日 管理を命ずる処分)
14.11. 5 勝英農業協同組合と債務引受契約締結
〃 同組合へ付保貯金の移転 5.資金援助 資金援助とは組合が破綻した場合、機構が破綻組合から不良資産等を買い取るとともに、信用事業譲渡・合併等を行う救済組合に対し、金銭を贈与し、その信用事業譲渡・合併等が容易に行われるよう実施するものである。
平成16年度における新たな資金援助の実施はない。

資金援助実績の推移(単位:件、億円)

年度 S.62 H.5 H.8 H.9 H.10 H.11 H.12 H.13 H.14 H.15 H.16 合計
総件数 1 1 1 2 3 3 1 9 1 0 0 22
農協 1 1 0 2 2 2 0 8 1 0 0 17
漁協 0 0 1 0 1 1 1 1 0 0 0 5
金銭贈与額 59.8 10.3 11.9 98.6 38.7 142.7 17.4 560.2 0 0 0 939.6
資産買取り額 0 0 0 0 0 0 0 78.3 10.3 0 0 88.6
資産の貸付額 0 0 0 0 19 5 0 3.7 0 0 27.7
債務の保証額 0 0 0 0 0 0 0 0 62.9 0 0 62.9

備考
1.各年度の計上は、運営委員会決定ベース。
2.総件数は、資金援助の対象となった救済組合の件数